リーダーシップは生まれつきか、育成可能か。リーダーになりそうな人またはリーダーになった後うまくリーダーシップを発揮できる人は、先天的に決まっているのか、後天的に学べるのか。このことについては、連載の4回目、7回目で議論した。
結論としては、生まれつきの要素もないわけではないが、それだけでは説明できないし、また実践的にもどうやって身につけるかを議論した方がいいので、リーダーシップの研究者もリーダーシップの教育者も、育成可能な側面に目を向けてきた。
もしもリーダーが生来の才能だけで決まるわけではなく、育成可能であるとしたら、リーダー育成にもっとも役立つのはいったいどのような出来事なのであろうか。少し、内省してみてほしい。自分には向いていないなどと思わずに、ささやかながらあなたの中にリーダーシップめいたものが芽生えているとしたら、それは(生まれつきでないとすれば)どのような具体的な出来事を通じて身についたものなのか。
よく企業の人事部の人たちと話しながら、「リーダーシップの諸理論も、その特性を伸ばすフレーズも知っているけれど、会った時点でリーダーシップのかけらもない人なら困るよね」という議論をする。私たちにとって役立つ理論はもちろん大切だが、本当に知りたいのは、生来の特性以外にどういう出来事、経験を通じて、リーダーシップが育成されているかという点だ。
そんな理由で私は経営者やミドル・マネージャーにインタビューを通じて、あるいはリーダーシップの研修の場を通じて、仕事における一皮むけた経験についての話を収集するようになった。非常に学ぶことが多かったので、読者の皆さんもご自分の経験を思い出したり、直接薫陶を受けてきた上司や先輩の人間的成長の糧となった経験を聞いてみたりしてほしい。そこには、どういう経験がリーダーシップを身につける上で有益だったかという点を探るヒントに満ち溢れている。
仕事で一皮むけた経験の研究をスタートして数年経った2006年に、リーダーシップの体系的な育成で定評のある米国企業群を調査した。そのときにそれこそほぼあらゆる会社で耳にしたのは、ロミンガー社(Lominger)の70-20-10という数字だ。ロミンガーという社名は、CCL(センター・フォー・クリエーティブ・リーダーシップ。リーダーシップの研究と研修を扱う機関)の創設メンバーの二人(LombardoとEichinger)の名前を連ねた(Lom-inger)ものだ。
ここは今、米国でもっとも注目されているリーダーシップ育成機関として知られている。ここで経営幹部としてリーダーシップをうまく発揮できるようになった人たちに、「どのような出来事が役立ったか」を聞くと、なんと70%が経験、20%が薫陶、10%が研修という結果であった。
例えば、ある会社にはまだなかった事業をゼロから立ち上げたというような「経験」は、絵を描いたり、抵抗勢力に対処したり、応援団のネットワークを社内外に作っていったりという面で、リーダーシップの勉強となる。
このような経験を、誰の影響の下でくぐったのかが反映される点が、二番目の「薫陶」である。例えば、ヤマトホールディングス社長の瀬戸薫さんは、クール宅急便事業の立ち上げという仕事経験をしておられるが、彼は、ヤマト運輸創業者の息子にして元会長である、宅急便事業の生みの親・小倉昌男さんの下で直接、指導・薫陶を受けながら、この経験をくぐったのだ。瀬戸さんのようなリーダーシップを持つ人は、実際にスケールの大きいリーダーシップを発揮している人物から学んでいる。薫陶を授けてくれる人も、上司であれ、社長であれ、お客様・お取引先であれ、お手本人物の言動から学んでいる。
そして残りの10%が、研修を通じて学べることだ。
「たった10%」と思うかもしれない。しかし、もしもリーダーシップを磨きたいと思う人が自分の経験を内省したり、直接薫陶を受けた人の言動を再度思い出したりすることとリーダーシップの学習(研修)を結びつけられれば、この10%という数字がパワフルなものになると私は信じている。
プロフィール
金井壽宏(かないとしひろ)
1954年生まれ。京都大学卒業。MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)取得。現在、神戸大学大学院経営学研究科教授。
変革型リーダーシップ、キャリア発達、組織エスノグラフィーなど組織研究方法論が主たるテーマ。
著書は『企業者ネットワーキングの世界』、『経営組織』、『働くひとのためのキャリア・デザイン』、『仕事で「一皮むける」』、『リーダーシップ入門』など多数。

